装置保有施設:QST 高崎量子応用研究所、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
いわゆる植物PET(Positron Emission Tomography)と呼ばれている可視化技術(PETIS: Positron Emitting Tracer Imaging System)について解説する。名称に“ポジトロン”とあるように、この技術の特徴はRIにポジトロン放出核種を利用する点にある。ポジトロンとは正の電荷を持った電子のことで、これが負の電荷を持つ電子と結合し消滅する際に、511 keVのエネルギーを持つ2本のガンマ線を正反対の方向に放出する。一対の検出器でこの2本の放射線が同時に検出されれば、その検出器間を結ぶ線上の位置に検出対象であるRIが存在することになり、これを繰り返すことにより生体内のRIトレーサ分布が描画される。この同時計数という放射線検出法は、ノイズを極限にまで低減でき、ダイナミックレンジが広いため、定量に有利だとされている。病院の診断で用いられているPETは3次元像を撮像するシステムになっているが、草本などが対象となる植物研究では、PETISの2次元像で動態解析による生理解明が十分に可能となる場合が多い。システムの構築において注意しなければならない点は、供試植物の育成条件(温度、湿度、照度、大気組成等)を撮像環境に再現できるかどうかである。よって、コンパクトなイメージング装置を植物育成庫へインストールし、非密封RIの取り扱いについての考慮がなされた撮像システムの構築が理想的である。
植物研究で利用されるポジトロン放出核種は11C, 13N, 22Na, 54Mn, 52Fe, 64Cu, 65Zn, 107Cd, 127Cs等、植物にとっての必須元素、環境を汚染する有害元素が揃っている。これらは購入するか、もしくは加速器によるイオンビーム照射で特定の元素を核変換(例: N-14→C-11)して製造する。QST高崎研および東北大学CYRICでのPETIS実験のメリットは、同事業所内の大型加速器を用いて短寿命なポジトロン放出核種(11C:半減期20分、13N:半減期10分、等)を製造でき、実験に供することができる点である。例えば、11Cを標識した二酸化炭素を葉にふりかけると、葉内で、11Cで標識された光合成産物が合成され、作物の生産性を議論する際に欠かすことのできないファクターである炭素栄養の動態が描出される。さらに、短寿命RIであることを活かして、同一植物個体で繰り返し実験を行い、個体差間を気にすることなく、環境に応答した生理が起因となる体内元素動態の変化を、定量することができるメリットがある。