68Ge/68Gaジェネレータの作製と68Gaミルキングの実施

目次

実験目的
実験原理
主な準備物
[A]68Ga のミルキングとカラム内で成長する68Ga の放射能の測定
[B]68Ga の半減期の測定

 


 

実験目的

放射平衡にある親核種と娘核種から、娘核種のみを繰り返し分離する目的で作成されたセットはアイソトープジェネレータ(またはジェネレータ)と呼ばれ、放射性同位元素を用いた診断・治療や化学実験に応用されている。ジェネレータの主要部分は、多くの場合、親核種を固定したまま共存する娘核種だけを取り出すためのクロマトグラフィカラムである。このカラム に親核種を吸着させておき、溶離液を流して娘核種だけを溶出させる。カラムの充填剤としてはイオン交換樹脂、無機酸化物イオン交換体などが多く用いられる。

カラムを小型化することで、法的に放射性同位元素の規制を受けない下限数利用以下の利用も可能になり、また、大型ジェネレータのようにセットの内部に放射線遮へい体を設ける必要もなくなる。

68Ge/68Ga ジェネレータは PET(ポジトロン断層撮像法)診断において、被験者に投与する放射性薬剤、ならびに計測装置の検査線源として市販されている。これは 0.37~1.11 GBq(10 ~30 mCi) の大線源で大変高価である。市販のジェネレータのカラムの充填物には、SnO2・nH2O や TiO2・nH2O 等の含水無機酸化物が用いられる。実習で用いるジェネレータ 1-5)は含水酸化スズ(IV) をカラムに充填して作製した小型ジェネレータ(放射平衡中の娘核種を含めて 100 kBq 未満)は遮へい体を有しない以外は、原理や構造は既存のものと同じである。

本実習では、小型 68Ge/68Ga ジェネレータを用いて、ミルキングにより溶出される68Gaの放射能と溶出後にカラム内に生成する 68Ga の放射能の時間増加を実際に測定することで、放射平衡やジェネレータの原理・構造を理解する。自作ジェネレータから自らミルキングして得た短寿命の娘核種(ここでは68Ga)を用いて行う壊変の測定やトレーサー実験は、市販の放射性同位元素で行う場合に比べてはるかに印象的で、実習や理科実験の面白さを強く実感させる。実習を通じて、無機酸化物カラムによるイオンの分離関係などに興味を感じたなら、さらに吸着剤(カラム充填剤)を製造して、68Ge/68Ga ジェネレータを作製することを勧める。

図1. 68Ge/68Gaの崩壊図

 

実験原理

68Ge は半減期が約 9 ケ月で EC 壊変して68Gaとなり、68Gaもまた放射性であり、半減期は 1 時間余りで主として β+壊変して 68Zn となり安定化する(図 1 および表1)。この場合68Ge を親(または親核種、Parent)、68Ga を娘(または娘核種、Daughter)と呼び、化学的性質の相違を用いて両者を分離することができる。

短寿命の娘核種を取り除いた長寿命の親核種からは、時々刻々に娘核種が生成してきて、やがて平衡状態(放射平衡)に達する。放射平衡にある親核種と娘核種から、娘核種のみを繰り返し分離する目的で作成されたセットがアイソトープジェネレータ(またはジェネレータ)である。毎日の乳搾りになぞらえて、ジェネレータの親核種を Cow、娘核種を取り出す操作をミルキングという。

原子炉やサイクロトロンなどの放射性同位元素の生産装置がないところでも、ジェネレータからミルキングにより短寿命の娘核種を任意の時に、簡単に、純度よく、安定同位体を含まない状態(Carrier-free、無担体)に得ることができる。本実習では、プラスチック製使い捨て注射器にゲル化した水酸化スズ(IV) をカラムに充填してジェネレータを製作する。実習では、あらかじめ製作した小型 68Ge/68Ga ジェネレータを用いて、ミルキングにより溶出される 68Ga の放射能と溶出後にカラム内に生成する 68Ga の放射能の時間増加(成長)を調べる。実習の前に放射平衡やジェネレータの原理・構造について予習しておく必要がある。


表 1. 68Ge/68Gaの壊変と性質

 

主な準備物

使用機器:NaI(Tl)シンチレーション測定装置
使用器具:カラム(1mL のプラスチック製使い捨て注射器)、小型ゴム栓、注射針付き注射
器(1mL のプラスチック製使い捨て注射器)、プラスチックチューブ、スタンド
放射性同位元素:68Ge/68Ga 無担体 0.5mol/L 塩酸(5-10 kBq)
充填剤 :含水酸化スズ(IV): SnCl4 + 4 NaOH = Sn(OH)4 + 4 NaCl
溶離液:1mol/L 塩酸
下限数量(68Ge):放射平衡中の娘核種(68Ga)を含め 100 kBq

 

[A]68Ga のミルキングとカラム内で成長する 68Ga の放射能の測定

 

実験操作

(1)NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置の主電源スイッチを入れた後、0.511MeVの消滅放射線を計測するためのエネルギーウインドウと印加電圧を設定する。

(2)自然計数を 10 分間測定する。

(3)0.5M 塩酸中の 68Ge/68Ga 無担体(5-10 kBq)を吸着したカラム(充填剤 0.3 mL)をスタンドに垂直に固定する(図 2)。

(4)使い捨て注射器を使い 0.3 mL の 1 M 塩酸溶液を取る。これをカラムの上部からゆっくり滴下して、68Ga を含む溶離液をカラム直下のプラスチックチューブに回収する。溶離液の入ったプラスチックチューブに栓をして、カラムの放射能測定の合間に放射能を 1 分間計測して、測定開始時刻ともに記録する。通常、カラム充填剤0.3 mL では、溶離液 0.3 mL 中に 60-70 %(充填剤 0.1 mL では溶離液 0.1 mL 中に 60%)の68Ga の溶離収率が得られる。

(5)速やかにカラムを取り外す。プラスチックチューブに収納した後、NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置にセットする。

(6)68Ga の溶出後、0 分、20 分、40 分、60分、90 分、120 分、180 分まで各 1 分間放射能を測定し、測定開始時刻とともに記録する。

 

データ処理

得られた測定値は自然計数を補正して、68Ga の放射能(縦軸)と 68Ga 溶出後の経過時間(横軸)関係を方眼用紙上にプロットする(図 3)。


図3. 68Gaの減衰曲線と成長曲線

 

考察への手引き

(1)[A](7)で得られた68Ga の放射能と 68Ga溶出後の経過時間の関係を放射平衡の式から得られた68Ga の放射能の成長曲線と比較して考察せよ。

(2)68Ge と 68Ga の関係のように放射平衡にある核種の組合せには他にどのようなものがあるか。特に核医学における診断や治療への応用について調べよ。

(3)放射能は壊変に伴って減少する。68Ge の放射能は減少しているにもかかわらず、カラム中の放射能は増加(成長)した。なぜか考察せよ。

 

[B]68Ga の半減期の測定

 

実験操作

(1)NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置の主電源スイッチを入れた後、0.511MeVの消滅放射線を計測するためのエネルギーウインドウと印加電圧を設定する。

(2)自然計数を 10 分間測定する。

(3)0.5M 塩酸中の68Ge/68Ga 無担体(5-10 kBq)を吸着したカラム(充填剤 0.3 mL)をスタンドに垂直に固定する(図 2)。

(4)使い捨て注射器を使い 0.3 mL の 1 M 塩酸溶液を取る。これをカラムの上部からゆっくり滴下して、68Ge を含む溶離液をカラム直下のプラスチックチューブに回収する。

(5)溶離液の入ったプラスチックチューブに栓をして、NaI(Tl)ウエル型シンチレーション測定装置にセットする。

(6)68Ga の溶出直後 0 分、20 分、40 分、60 分、90 分、120 分、180 分まで各 1 分間放射能を測定し、測定開始時刻とともに記録する。

 

データ処理

(1)得られた測定値は自然計数を補正して、68Ga の放射能(縦軸)と 68Ga 溶出後の経過時間(横軸)関係を、方眼用紙(図 3)と縦軸が対数で横軸がリニアの片対数方眼用紙上にプロットする。

(2)溶離前のカラム中の 68Ga の放射能と溶離液中の 68Ga の放射能から溶離収率を算出する。

 

考察への手引き

(1)[データ処理](1)で得られた放射能と経過時間の関係から、68Ga の半減期を求めよ。

(2)ジェネレータに用いられる充填剤は親核種と娘核種に対してどのような性質を持つことが求められるか。68Ge と 68Ga の充填剤への結合性を例に説明せよ。

 

引用文献

(1)野崎正, 佐々木徹, 小川幸次, 68Ge/68Ga ジェネレーターの教育利用, 第 53 回 アイソトープ・放射線 研究発表会,東京, 2016 年 7 月 6-8 日
(2)野崎正,小川幸次, 68Ge/68Ga Generator の超小型化とカラム内で生じた 68Ga の挙動,第 51 回アイソトープ・放射線研究発表会, 2014 年 7 月 7-9 日
(3)鷲山幸信,天野良平,野崎正,小川幸次,永津弘太郎,阪間稔,井戸達雄, 放射化学教育のための 68Ge/68Ga ジェネレータープロジェクトと RI 実習への応用, 第 70 回日本放射線技術学会総会学術大会, 神奈川県横浜市, 2014 年 4 月 10-13 日
(4)Nozaki T., Ogawa K., Use of Small 68Ge/68Ga Generators in Experiments for the Education of Radioisotope-related Fields as well as of Natural and Social Sciences in General, The 5th Asia-Pacific Symposium on Radiochemistryʹ13 (APSORC13), Kanazawa, Japan, 289, 2013.
(5)Sasaki T., Aoki K., Yamashita R., Hori K., Kato T., Saito M., Niisawa K., Nagatsu K., Nozaki T., Development of an externally controllable sealed isotope generator. Appl. Radiat. Isot., 133:51-56, 2018.