重粒子線がん治療装置の小型化研究-普及への展望-

Isotope News2018年2月号より、ライフサイエンス分野、医学分野等に関連する記事をご紹介いたします。

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著者:古川 卓司
概要(はじめに):放射線医学総合研究所(放医研)では,国の第一次対がん10か年総合戦略において炭素イオン線をがん細胞に照射する重粒子線治療に着目して,世界で初めて医療用の重粒子線加速器(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba :HIMAC)を開発し,1994年に炭素イオン線によるがん治療の臨床研究を開始した。以来,全国の専門家の協力を得て臨床研究のネットワークを構築し,これまでに10,000名を超えるがん患者に対し重粒子線治療を行ってきた。その結果,ほかの治療法では治癒が困難な難治がんに対して高い治療効果が認められるなど,最先端の放射線治療技術として国内外から注目される成果が得られている。

これらの臨床研究の成果に基づき,2003年には固形がんに対する重粒子線治療が高度先進医療として承認された。このような状況を受け,国内での重粒子線治療を推進するため,2004年から普及型炭素線がん治療装置の開発が開始された。その結果,大きさ・費用共に従来型装置の約3分の1となる小型装置の開発に成功し,その1号機が群馬大学に建設され,2010年から治療運用が始まった。その後,2号機が佐賀県鳥栖市(2013年治療開始)に,3号機が神奈川県立がんセンター(2015年治療開始)に建設され,前述の普及機開発の成果として,順調に普及していると言えるだろう。これらの動きと平行して,放医研では次世代の照射技術としてスキャニング照射技術及び回転ガントリー装置の開発プロジェクトを2006年より開始した。従来,スキャニング治療では呼吸移動を伴う臓器への適応が難しいとされており,これを実現することがこの開発プロジェクトの1番の課題であった。このプロジェクトの成果として,HIMAC増設し,スキャニング照射の治療室を備える新治療研究棟が建設され,2011年から治療運用を実施している。前述の呼吸性移動を伴う臓器についても,自然呼吸下で呼吸同期を行い,高速リスキャンを行うという照射技術により,2015年から治療を世界に先駆けて開始することに成功した。また,超伝導磁石を用いた小型軽量の回転ガントリー装置もこの新治療研究棟内に設置され,2017年から治療運用を開始している。昨今,更なる普及のために,このような先進性を保ちつつ,更なる小型化・低価格化を実現することが求められている。このようなニーズに対応するため,全く新しいスキャニング照射装置とそれを採用する回転ガントリーを(株)東芝と放医研の共同で開発するに至った。本稿では,この新しい照射装置を紹介し,重粒子線がん治療とその普及に関する将来展望を述べる。