複数のトレーサを同時追跡可能な「MI-PET」

Isotope News 2017年12月号より、ライフサイエンス分野、医学分野等に関連する記事をご紹介いたします。

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著者:福地 知則

概要(はじめに):陽電子断層撮影法(Positron Emisson Tomography: PET)は,陽電子放出核種をトレーサとして,その分布を可視化するイメージング技術である。イメージングに物質透過力の高いγ線を用いることで,生体の深部に分布するトレーサを非侵襲的に画像化することができる。また,トレーサ1分子が1シグナルを出すことから,ごく微量のトレーサで全身を解析でき,他の手法では成し得ない高感度のイメージング技術となっている。
陽電子放出核種(PET核種)で標識した薬剤の臓器や組織への取込みをPETにより可視化することで,生体の様々な機能や疾患を調べることができるが,PETの利用方法として最も身近なのは,がん検診であろう。FDG-PETと呼ばれるがん検診は,PET核種である18Fで標識したブドウ糖類似分子によるトレーサFDGを使い全身の糖代謝を調べることにより,糖代謝が盛んながん細胞を見つける検査方法である。がん診断へのFDP-PETの有用性が認められたことによりPETが広く普及してきた歴史もある。更に近年,がんの診断に限らず,アルツハイマー病等の早期診断への有用性も確かめられてきている。また,強力な解析手法であるPETは,臨床に限らず創薬等の,動物を用いた前臨床研究にも利用されている。
広く利用されているPETであるが,複数のトレーサを同時に画像化できないという欠点がある。これは,PETでイメージングに利用する消滅γ線が核種に依らず,エネルギー511kevになるため核種の区別ができないからである。したがって,複数の核種をトレーサとして同時に使用しても,得られる画像はすべての核種を重ね合わせた分布となる。しかしながら,複雑かつ多様な生命現象をより深く理解するためには,単一のトレーサのみの解析では限界があり,また,疾病が単純な1つの要因ではなく複数の分子による複合的な要因により発症していることが多いことも知られている。したがって,PETにより複数のトレーサを同時に追跡できれば,核医学イメージングに新たな可能性をもたらすことが期待できる。そこで,筆者らは複数トレーサを同時イメージング可能なMulti-Isotope PET (MI-PET) の開発に着手した。本稿では,筆者らが開発中の装置の現状と今後の展望について述べる。