がん診断と治療の両方に適した67Cuの新製造法と利用

Isotope News 2017年10月号より、ライフサイエンス分野、医学分野等に関連する記事をご紹介いたします。

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著者:永井 泰樹,塚田 和明

概要(はじめに):我が国では,高齢化社会に入りがん患者の方が急増して2016年には100万人を超え,またがん擢患数の約1/3は就労可能年齢であると予測されています。健康で自立した生活を望まれる高齢者の方そしてがん羅患勤労者の方が望まれる治療と就労の両立,患者の方々が抱えるこのような課題の解決に向けて,低侵襲で“生活の質の高い“がんの早期診断法と早期治療法の研究開発はますます重要な問題となっています。
がんの早期診断に関しては,放射性同位体(RI)を特定の臓器や細胞に集積しやすい医薬品と合成(標識)した放射性医薬品を用いる核医学診断法が,迅速に高精度で病変箇所の診断を行うことができるため世界中で多用されています。本診断法では,被験者の方の体内に投与された放射性医薬品は,がん細胞部に集積しそこから光の仲間であるγ線を放出します。このγ線は,被験者の方の体外に置かれたガンマカメラ(検出器)で検出されて画像化されます。被験者の方そして被験者の方の親族は,その画像を視て状況を理解され,もしがんの場合は納得されてその後の治療に臨むことになると期待されます。
一方,がん治療では,放射性医薬品を患者の方に投与し,がん細胞部をRIから放出される”電子線の仲間であるβ線やオージェ電子線”あるいは‘‘α線”で体内から照射し致死する医療(RI内用療法)が低侵襲の治療として効果を発揮しています。
ところで,医薬品のがん細胞への集積性や治療効果そして副作用は,個人差があることが知られています。そのためがん治療では,個々の患者の方に応じた“個別化医療”が重要とされています。今後“個別化医療”を強力に推進していく上で放射性医薬品が持つ上記特徴を生かした核医学診断と治療は,重要な役割を果たすと考えられています。
67Cuは,“がん患者の方に,ただ1種類の67Cuを用いて診断と治療が行える能力を持つ理想的なRI”と考えられています。患者の方の”がん細胞と正常細胞への放射性医薬品の集積量を反映する画像化された診断情報”を基に,同じ放射性医薬品を治療に用いることで患者の方に最適の治療が可能になるからです。67Cuは,“個別化医療”の実現に向け重要なRIです。そのため,67Cu医薬品の実用化を目指して”高品質の67Cuを大量に製造する“研究開発が,1970年頃から現在に至るまで世界中で行われてきました。しかし,その製造法は未だ確立せず,67Cu医薬品の研究開発が停滞する状況が続いています。
筆者らは,加速器を利用して67Cuの我が国独自の新しい製造法を提案しました。そして,新製造法に基づく実験を行い,“高品質の67Cuが得られること,そして大量に製造できる可能性を有すること“を明らかにしました。更に大腸癌を移植したマウスにこの67Cuを投与した実験を行い,67Cuが腫蕩部に顕著に集積することを発見しました。本稿では,67Cuの新しい製造法及びその特徴,新製造法で製造された67Cuを用いた担癌マウスの研究の現状をご紹介します。