超伝導技術を用いた重粒子線がん治療用回転ガントリー

Isotope News 2017年4月号より、ライフサイエンス分野、医学分野等に関連する記事をご紹介いたします。

なお、掲載記事一覧はこちらからご覧になることができます。

全文をダウンロードする[PDF]

著者:白井 敏之

概要(はじめに):放射線治療における回転ガントリーとは,治療台上の患者に対し,360度任意の方向から放射線を照射するための装置であり,X線・陽子線がん治療においては必須のものとなっています。しかし,陽子線より磁場で約3倍曲がりにくい重粒子線(炭素線)の場合,電磁石が大型になるため,従来の重粒子線がん治療では,回転ガントリーではなく,固定ビームラインで治療が行われてきました。そのため,放医研では正常組織の障害を避けるために,図1に見えるように,患者を治療台の上で回転させて治療を行っています。このように回転させた場合,患者の負担が増すだけでなく,臓器の移動・変形への考慮や,特殊な患者固定具の作成など,手間とノウハウが必要となるため,重粒子線がん治療の普及への障害にもなっていました。
こうした中で,世界で初めて建設されたハイデルベルグ大学の重粒子線回転ガントリーは,大型電磁石のため長さ25m,重量670tにもなり,非常に巨大なものでしたが,実際に実現できたことで,重粒子線がん治療においても回転ガントリーに注目が集まることになりました。回転ガントリーを用いることにより,単に患者負担が軽減し,治療効率が上がるだけでなく,3次元スキャニング照射技術と併用することで,図2のような多方向からの強度変調治療も可能となり,腫蕩に近接した正常組織を避けられるなど,線量集中性が高い重粒子線がん治療のメリットを,より活かすことができるようになります。量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所(以下,放医研)では,重粒子線がん治療装置HIMACを建設し,1994年より臨床研究を実施してきました。図3にあるように,現在までに治療件数は10,000件近くに達しており,多くの腫蕩において良好な成績を得るとともに,手術不能な骨・軟部腫湯については,保険診療が認められています。こうした臨床研究と並行して,筆者らは2006年から次世代の重粒子線治療装置開発に着手しました。この中では,従来は困難だった体幹部への照射が可能な高速3次元スキャニング照射装置とともに,一般医療施設にも設置可能な小型回転ガントリー装置も開発テーマに掲げていました。2010年には既存の重粒子線棟の隣に,この装置を設置する新治療研究棟が竣工し(図4参照),2011年より固定ビームラインを使用する一部治療室(治療室E)で治療が開始されました。一方,小型回転ガントリーは,要素技術開発の進展を受けて,2012年より本格的な建設が開始されました。