光のエネルギーを用いてセシウムイオンを一方向に運ぶ タンパク質の創成

Isotope News 2017年4月号より、ライフサイエンス分野、医学分野等に関連する記事をご紹介いたします。

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著者:神取 秀樹

概要(はじめに):筆者は光に応答するタンパク質のメカニズムを研究する生物物理学者・分子科学者であり,放射性セシウム回収のような実用研究とは無縁である。しかしながら,筆者らが創成した光駆動セシウムイオンポンプは世界で初めてセシウムイオンを一方向に動かすことのできる技術であり,吸着のような「受動的な回収」ではなく,「能動的な回収」に向けた新たな原理の開発として注目された。
本稿では,光でセシウムイオンを一方向に輸送するシステム開発について紹介する。セシウムイオンの一方向輸送に至る道には,3つの障壁とそれを乗り越えるブレークスルーが存在した。水素イオンの一方向輸送(1971年),ナトリウムイオンの一方向輸送(2013年),そしてセシウムイオンの一方向輸送(2016年)である。最初のブレーククスルーはドイツ人研究者によってもたらされた一方,2つ目と3つ目については幸い,筆者らのグループがもたらすことができた。ちなみに1つ目と2つ目については自然界に存在するポンプ(エネルギーを使って一方向に輸送するので「ポンプ」と呼ばれる)を発見したというものであり,3つ目のセシウムイオンポンプだけが自然界に存在しないものを創成したことになる。次章ではまず,イオンなど荷電粒子を-方向に輸送するシステムがどのように研究されているかという現状と,水素イオンの一方向輸送を実現する光駆動ポンプの発見について解説し,その上でセシウムイオンの一方向輸送につながった研究を紹介する。