植物細胞内の硫酸イオン輸送

RADIOISOTOPES 64 巻 (2015) 8 号より、ライフサイエンス分野、医学分野等に関連する記事をご紹介いたします。

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著者:丸山 明子

概要(はじめに):硫黄は植物の生存に必須な多量元素であり,蛋白質の構成要素であるシステイン,メチオニン,還元力の供給や有害物質の解毒に働くグルタチオン,その他ビタミン類や補酵素などに含まれることにより,生体反応の様々な局面で重要な役割を果たす。植物特有の含硫二次代謝物質には,アブラナ科植物の忌避物質であるグルコシノレート,ネギ属の臭い成分であるアリシンなどがあり,これらの発がん抑制効果が注目されている。動物は還元的な硫黄同化系を持たないため,メチオニンの摂取が生存に必須である。このように,自然界の硫黄循環に植物の硫黄同化が果たす役割は非常に大きい。
植物は硫黄同化の出発物質として主に硫酸イオンを用いる。硫酸イオン(SO42-)は硫酸イオントランスポーターの働きにより植物体内へと取り込まれ,同化組織へと輸送される。その後,ATPスルフリラーゼの働きによりATPと反応し,APS(5’アデニリル硫酸)へと活性化される。APSはAPS還元酵素の働きにより亜硫酸イオン(SO32-)へと還元され,次いで亜硫酸還元酵素の働きにより硫化物イオン(S2-)へと還元される。硫化物イオンはO-アセチル-L-セリンと反応することによりシステインとなる。この反応を触媒するのがシステイン合成酵素である。
この過程で働く酵素のうち,亜硫酸還元酵素は葉緑体などの色素体にのみ存在する。そのため,硫酸イオンの還元反応は色素体内で起こると考えられている。細胞質から色素体への硫酸イオン輸送に働く硫酸イオントランスポーターが明らかにされたのは最近のことである。ここでは,植物細胞内の硫酸イオン輸送について紹介したい。