装置保有施設:東京大学大学院農学生命科学研究科アイソトープ農学教育研究施設
ミクロオートラジオグラフィ(MAR)は50年以上も前からある技術でして、目新しいものではありません。MARでは高解像度での観察が可能で、主に高分子化合物の細胞レベルの分布解析に用いられてきました。一般的なMARではサンプル調整の過程で細胞固定・脱水・レジン置換の後、薄切片を作成します。この方法では、高分子化合物の観察は問題なく実施できますが、溶質であるイオンや低分子化合物はサンプルから流出してしまいますので、可視化は困難でした。そこで本施設では、イオンや低分子化合物の詳細分布画像を得るための技術開発として、サンプルの採材から検出(画像化)までを凍結下で実施する手法を開発しました。
検出方法としてはイメージングプレートもしくは原子核乳剤の2通りあります(図)。イメージングプレートを用いたイメージングはラジオルミノグラフィ(RLG)と呼ばれるものであり、定量性が非常に高い一方で、解像度はそれほど高くなく、植物でいえば師部と木部を判別できないけれど、維管束としては認識できる程度の解像度の手法です。一方で、原子核乳剤を用いたMARでは、解像度は師部と木部が認識できる程度に高いものの、定量性は劣ります。操作を考えると、RLGは大変簡単で誰でも出来るようになる手法ですが、MARは器用な人でないと習得は難しいかもしれません。知りたい情報に応じてこのような特徴のあるRLGとMARを上手く使いわけるのがよいでしょう。
図は玄米中のセシウム分布をRLGにより可視化した例です。この例では、さらに連続切片を作成しRLGで可視化したデータを、ImageJ等のソフトウエアで重ね合わせをすることで、3Dでの分布解析を行っています。RLGの定量性が高いからこそ、3D化も可能だということです。一方で、より細かい分布を見るためにはMARが適しています。図ではイネの葉や根のカドミウム分布をMARで可視化した例です。尚、14Cが適用できることから、より広く植物科学で利用されることを期待しています。